2021年

森博嗣『黒猫の三角』講談社文庫

おもしろかった!結局この言葉で感想が始まってしまう。

犯人が明かされたときには、私も全然信じられなくて、解説で皇先生が「何の根拠もなく正しいと思ってしまう」と言っていたのがよくわかる。私もそう。

これだけの展開が用意されていて、Vシリーズこの先これを超えられるんだろうか?と思いはするけど、S&Mシリーズもそう思って10作品全部おもしろかったから、きっと大丈夫。それは森先生への信頼。

読むのに時間がかかってしまったこと、作中の嘘に気づけていないこともあるので、もう1度頭から読んでみたいな。

青柳碧人『浜村渚の計算ノート 3さつめ 水色コンパスと恋する幾何学』講談社文庫

しばらく空いての3さつめ。最近五稜郭の建築について学んだばかりだったので、城塞としてでなく数学的側面からまた学びになったのが嬉しかった。武田斐三郎の名前も知っていたのでホクホク。

前2作に比べて扱う内容は少し難しくなった印象はあるものの、幹部と接触したり、1話完結ではなく連続的な話が多かった。次巻も期待。

ファラデー『ロウソクの科学』角川文庫

科学を学ぶものとして読んでおきたいと思い読了。

講演の雰囲気をそのまま訳されているので、読み物としては読みづらいところもあるし、実験を脳内で再現しなければついていけないところもあるが、全体としてはとても良かった。

何よりこれがまだ電灯もない19世紀半ばに講演として広く伝えられていたことに感動する。講演の内容も端々に「みなさんが実際にやってみられますように」と、聴講者自らの体験にできるように工夫が施されているのが良い。

ひとつのロウソクという物から科学の基礎を丁寧に解説する、とても良い講演。

森博嗣『森博嗣のミステリィ工作室』講談社文庫

おもしろかった。ここまで多才な人がいるものかと思った。趣味を持続している力もすごい。

ルーツ・ミステリィ100は収穫が多かった。いわゆる「推理小説」だけを「ミステリィ」と捉えているわけではない、というのが新鮮だった。(犀川&萌絵のシリーズは明らかにミステリィだから)

読んでいて思ったのは「人生は何でもミステリィなのでは」ということ。たとえば逆上がりができないとき「なぜできないのか(謎)」「どのようにしたらできるのか(推理)」「できるようになる(解決)」と組める。まさにミステリィの構図のように思える。

澤村御影『准教授・高槻彰良の推察EX』角川文庫

それぞれのキャラクターの個性が魅力的に描かれた番外編。

特に、難波くんの視点で描かれた深町くんのエピソードはとっても素敵だった……!本編の読者には深町くんの良さが十二分に伝わっていると思うけれども、そうやって大学の人にも少しは伝わっているのだなと思って安心した(親心?)。

そして新キャラがかなり出てきた印象!大学の同級生はもちろん、変わった近代史の先生、警視庁にある特殊な組織などなど。今後の物語にどう絡んでくるのか、とっても気になる。まだドラマを見ていないので早く見なければ。

ジェームズ・M・ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』新潮文庫

どうして殺さなければならなかったのだろう、という根本に疑問を抱いてしまう。そういう世情だったのだろうか、1930年代アメリカ。

救いようのない罪を犯したふたりであり、幸せそうな未来に向かっていくのを複雑な気持ちで見守っていたが、不幸な結末(フランクの心境が記されているからそう感じてしまう)を迎えて、余計複雑になってしまった。

ニックは不憫だな。彼は本当に何も悪いことをしていない。ふだんミステリーを読むことが多いだけに、明確な殺意を追いかける体験がなかなか新鮮だった。

森博嗣『地球儀のスライス』講談社文庫

生活が忙しくて読むのに時間をかけすぎてしまった。

解説の冨樫氏に倣って。

私のお薦めは「小鳥の恩返し」「マン島の蒸気鉄道」「僕は秋子に借りがある」である。

以上、ほぼかぶってしまった!

米澤穂信『本と鍵の季節』集英社文庫

初めての米澤穂信。ずっと知ってたけど読んだことがなかった。本作はタイトルに惹かれて購入。

『トム・ソーヤーの冒険』みたいだなと思った。特別なことはなく、ただ日常の中で出会う謎(冒険)に挑むような。

そんな普通さがとても心地よくて、自然と高校の図書室に自分もいるようだった。ミステリーの内容としても考え甲斐があり、自分が思ったことを堀川か松倉が代弁してくべるのがとても良かった。

とてもおもしろかったので、続編や他の作品も読んでみようと思う。

ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』角川文庫

ライオンとユニコーンなど、知らなかったイギリス文化を垣間見た。もっといろいろなことを知っていたら楽しみも深まるのだろうか。

やっぱり原書を読んでみたいなと思う。キャロルの言葉遊びがどんなものなのか、とても興味深い。かばん語という言葉もセンスが良いなあと感じた。言葉遊びにわくわくする。

森博嗣『有限と微小のパン』講談社文庫

感想をしっかり書ける気がしない。だが、読後すぐの感覚を記録してはおきたい。

感情をいかに言語化するか、というのはかねてよりの自分の課題であったが、不可能であることに気がついた。そもそも感情を言語化するには、言語とそれに相当する感情を知っていなくてはならない。しかし、今この本を読んで今までに感じたことのない感覚に襲われている。感情の言語化というのは、ある人を誰か別の人(多くは有名人)に喩えるような「共通の認識で代用する」作業に近い。すなわち単純化だ。私は、今のこの感覚を表現する語彙は持ち合わせていないし仮に「こういう感じ?」と訊かれたとしても、きっとYesともNoとも言えないだろう。

だから、この本の記録として、私が私自身で観測したいくつかの事象を書き留めることにする。

  1. シリーズ10作品の中で「恐怖」「緊張感」といった感覚がもっとも多かった
  2. 犀川先生が隣にいないことが不安だった。来てくれたときにはホッとした
  3. 私は今、今晩は他に何も読みたくないと思っている

それくらいか。本当はもっとあったかもしれないが、言語化する作業に伴い幾分冷静になり、うずまいていた思考は整理され、どこかへいってしまった。

竹岡葉月『おいしいベランダ。 午前10時はあなたとブランチ』富士見L文庫

ついに完結してしまった!

この作品を読み始めたときはまだ大学生で、まもりちゃんのようなずぼらな生活をしていて、自分もかなり葉二さんに助けられていた。

舞台が練馬から神戸に移り、結婚式の様子や新天地での生活が描かれ、ああ幸せだな、ずっとこのふたりを見ていたいなと思った。

『おいしいベランダ。』は大きな事件が起きる作品ではなく、ちょっと変わったふつうの日常がずっと描かれていて、自分の生活に飽きないのと同じように飽きずに見ていられる風景という印象。

できればずっと見ていたかった。番外編にも期待!

ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』角川文庫

初めてちゃんと読んだ。ざっくりとしたあらすじだけ知っていたけど、映画も観たことなかった。

キャロルが数学講師で言葉遊びが得意という情報は事前に知っていた。読んでみたらすごくユーモアに溢れていておもしろかった。これは訳者(河合祥一郎氏)がすごいのでは? 英語の言葉遊びを日本語でも楽しめるように訳してなおかつ物語の筋から逸れないようにするのは、至難の業だと思える。

他の日本語訳や、原書なども読んでみたいなと思った。

森博嗣『数奇にして模型』講談社文庫

すごくおもしろかった。『夏のレプリカ』を思い出す、ある意味“現実的”な話。一見して猟奇的殺人事件と思うことも、“猟奇的”と思う普遍性までは定義できない。“一般的”という言葉の特異性をも考える。

印象的だったのは、萌絵(のちに犀川も)が考える「何が1で何が0なのか」について。私も読みながらとても考えた。人間の核は何なのか。思考する“脳(首)”か、生を保つ“心臓(躰)”か。

一言で表せない“人間”や“個”について、“核”の意味によって、その“核”そのものが変化する。ゼロイチの定義は流動的なものだと思った。

澤村御影『准教授・高槻彰良の推察6 鏡がうつす影』角川文庫

徐々に「本物の怪異」の数が増えている印象。

ホラーが苦手なので恐る恐る読んだけど、結局引き込まれてすぐ読み終えてしまった。深町くんも頼もしくなってきて、これからたどり着くであろう高槻先生の身に起きた怪異に、一抹の恐怖は抱きつつもワクワクしてる。

今回がっつり触れたわけではないけど、少し気になった都市伝説は「ジェットババア」。聞いたことがあるような気はしつつ、ほとんど知らなかったので、また調べてみようと思った!

レイ・ブラッドベリ『華氏451度』ハヤカワ文庫SF

最初は恐ろしくて読むのも気が乗らなかった。なぜモンターグは激昂したのか。冷静ではいられなかったのか。疑問に思っていた。でも違う。“冷静に考える”など今まで全くしてこなかったのだ。たった一瞬のうちに変わるわけがない。そのとき、初めて思考を始めたのだ。老人たちに出会ってからは、私もこの世界を俯瞰できるようになった。ああ、今の世界に似ていると思った。情報に溢れ、得たものについて考えなければならないはずなのに、得ることで満足してしまっている。

これは、世界の終わりで、また新たな始まりを描く希望でもあると感じた。

森博嗣『今はもうない』講談社文庫

うわあ、してやられた。

幕間を読んでいても「これは本当に萌絵か?」と疑問には思ったけど、「もしかしたら18くらいのときかも」などと考えてしまっていた。

目次を見たときから違和感はあった。「いつもの割り方じゃないな」と。書いているのは森博嗣でありながら森博嗣ではなかったのか……。アクロイド殺し的な展開かとまで考えたのに。

笹木さん、最初は好きだったのにだんだん嫌なやつになっていくのが不思議だったけど、本人が書いているなら納得だ。

読後感がいいな。シリーズの中でも気に入った1冊。

坂木司『和菓子のアン』光文社文庫

とにかく和菓子が食べたくなる小説。物語はアンちゃんの一人称で進むので、彼女の考えや心の動きが直に入ってくる。正直「そんな子どもみたいな……」って思ってしまう瞬間がいくつもあるけど、まだ高校を卒業したばかりのアルバイトってこんな感じなのかなとも思う。自分は通らなかった道だからこそ、共感できないところもあるけど、アンちゃんが頑張っていることは伝わってきた。いくら教わったとはいえ消火器をとっさに正しく使えるのはすごい。まじめな子だな。

自然と和菓子に興味がわいた。私も体験したい世界。

ウィリアム・シェイクスピア『ハムレット』新潮文庫

過去に読んだシェイクスピア作品は、どれも舞台で観たことのあるものだったので、戯曲として読むことに苦がなかったが、今回初めて舞台を観たこともなければ、あらすじもよく知らない状態で戯曲を読んだ。これは想像以上に厳しい行動だった。なかなか読み進めるのが大変。想像を膨らませづらい。戯曲はやはり読み物ではなく舞台を鑑賞するほうが良いのか?と考える。

ところで、こんな話だったのか『ハムレット』。出てくる人間がだいたい狂っている。いや、狂っていくのか? うーん、難しい。

森博嗣『夏のレプリカ』講談社文庫

「犀川先生はどうして萌絵に話さなかったのか」について考えたとき、もしかして萌絵にとって良くないことだからなのでは、と思った。もちろん、別のフィルターを通して聴くことでわかったとも考えられるけど、犀川先生のことだから叔母様に話を聴いた時点で薄々感付いてたのでは。

素生さん、生きててよかった。知ったら杜萌も少しは救われるかな。

好きな話だった。すべての犯罪者が事件の解決を待ってから新しい犯罪を犯すわけではない、というある種ミステリーの隙きをついたような設定から素敵。『幻惑の死と使途』も読み返したくなった。

住野よる『君の膵臓をたべたい』双葉文庫

「君の膵臓をたべたい」その言葉にどんな想いがあったのか。タイトルとあらすじだけで想像できるその理由はありふれたものだったけど、違った。

もうすぐ死ぬと決まっている人が予想外の理由で早く死ぬことはない、みたいな考えは読んでいた自分にも湧いていた。そんな、まさか、そんな死に方って。1年先に死ぬ準備をしていたせいで明日死ぬ準備はできていなかったことが悔しいと思った。

自己完結で生きていた春樹も、それだけで桜良に影響を与えていたように、誰かの心のなかに存在することが「生きる」ということなのか、と考えた。

サマセット・モーム『月と六ペンス』新潮文庫

最初は誰のことも理解できなくて、どうしてこんなやつに惹かれるのか全くわからなかった。ストリックランドのこともストルーヴェのことも好きではなくて、私(語り手)はどうして付き合い続けるんだ?と疑問さえ抱いていた。だけど、物語を読むのを止めることはなくて、むしろこの物語がどう進んでどんな結末を迎えるのか気になって仕方がなかった。読み終えたときに初めて、自分はストリックランドにすごく興味を抱いていたのだと気づく。無意識に惹かれていたのか。ストリックランドの言う「永遠に続く現在」を自分も生きていきたいと思った。

はやみねかおる『都会のトム&ソーヤ 17 逆立ちするライオン』YA! ENTERTAINMENT

頭脳や思考に欠点がないと思っていた創也(いや、猪突猛進とかそういう欠点はあるけど)の、いわゆる“欠点”が明かされた印象。今まで抱いてきた創也のイメージとはだいぶ変わったかな? 今回のゲームはある意味作り込んでない、設定重視のゲーム。人狼とドロケイを兼ね合わせたようなルールで、中学生が実践しても楽しそうだなと思った。私も(もう大人だけど)やってみたいなと思う。

ところで、タイトル「逆立ちするライオン」の意味、予想してたと違ってびっくり。「家出人オレ」の「オレ」が「レオ」の逆なんだと思ったんだけどなあ。

森博嗣『幻惑の死と使途』講談社文庫

解説に天功さんが書かれていた「『わからない』と『つまらない』」という話。これは、この本を読み進めていくうえで実感した。なぜなら、正直途中までつまらなくて読むのに苦労したからだ。これまでのシリーズでは、少しずつわかるトリックがあったり、わからずとも予想できることは多かった。しかしこれは全くわからず、予想もつかなかった。その調子で読み進めていき、第15章に入ったあたりで、止まらなくなった。わかったからだ。最後まで読み、タイトル『幻惑の死と使途』の意味も想像できる。とてもおもしろい作品だった。

河邉徹『僕らは風に吹かれて』ステキブックス

大崎梢『クローバー・レイン』ポプラ文庫

小説を作る小説は何度か読んだけど、「売るまで」というシーンにフォーカスした内容は初めてだった。これまで何気なく書店で本を探していたけど、そこに置かれるまでの出版社さんの努力は並大抵のことではないのだと感じた。また、書店での本の見方が変わってきそう。中身が、装丁がどんなもので、どんな場所に置かれていて、どんな宣伝がされているのか。そのひとつひとつに目を向けて、できるだけたくさんの本と、本に携わる人たちを愛して、応援していきたいなと感じた。

本屋に並べてもらうのは大変なんだ。少しでも応援していこう。

チャールズ・ディケンズ『二都物語』新潮文庫

理不尽に投獄されていた父を持つルーシー。その夫ダーネイは、理不尽にも囚われてしまう。ダーネイを取り戻そうと奔走する人々。徐々に明かされていく人々の過去や真実に驚きの連続。次々と首が落ち、町に血が流れていく、激動のフランス革命は、文字で追っていくだけで自分もそこにいるような恐怖を感じる。終盤は緊張の展開が続き、ページをめくる手が止まらなかった。最後はカートンの献身的な愛情に涙してしまう。これはやはり、愛の物語。

森博嗣『まどろみ消去』講談社文庫

特に好きな話。

どれも良かったけど、「悩める刑事」は特に好きかな。思わず2周した。「真夜中の悲鳴」は緊張感がすごい。一人で無茶しないでー!「キシマ先生の静かな生活」は穏やかに、とても良い。何だろう、なぜかとてもわかる、と思った。キシマ先生が素敵。僕も素敵。 未だにわかってない話「純白の女」「心の法則」。この2つがなんだったのか、未だによくわかってない。結局誰が何だったんだ……?ちょっと寝かせてまた考えたい。

その他、インディアン!ふつうにわからなかったー!一瞬で謎を解く犀川先生すごい……。

森博嗣『封印再度』講談社文庫

まず章タイトルが良い。「鍵は壺のなかに」という事象から始まって、「真実は鍵のなかに」というある種トリックを示唆するフレーズで終えつつ、「鍵」に戻ることで、タイトルにもある「封印再度」につながるイメージ。再度封印するような章タイトル。犀川先生も、真実を明かさないことで、あの謎は再び封印されたのだと思った。蔵の中にいたのは誰?というWho insideとのかけ言葉も素敵。

5作目にして、犀川先生の思考がだんだん理解できるようになってきて、今回の選択は「犀川先生らしい」という印象を受けた。

森博嗣『詩的私的ジャック』講談社文庫

森博嗣『笑わない数学者』講談社文庫

シリーズ3作目。前作、前前作ともに、最後まで読むと、論理的に考えればわかったなとは感じることがあり、悔しい思いがあった。本作では、第2章を読んだ時点でトリックに気が付き、合ってるかどうかの不安はありながらも、そうと仮定して読み進めた。次第に、この人が怪しいのではと思う人も現れ、結果その人は犯人だったしトリックも正しかった。動機に関しては全く考えもしなかったが、ひとまずトリックがわかっただけでもすごく嬉しい。読者として、解決しがいがある作品シリーズだと思う。

森博嗣『冷たい密室と博士たち』講談社文庫

森博嗣『すべてがFになる』講談社文庫

高田大介『図書館の魔女 第四巻』講談社文庫

荻原規子『空色勾玉』徳間文庫