夢のような転職活動の末に

転職しようと思ったことがある。その時の私はボロボロで、毎日泣きながら家に帰り、泣きながら眠りについていた。

いくつかの転職サイトを見てみた。しかし、自分は何がやりたいのか、何に向いているのかが全くわからなくて、さらに泣いた。

この身一つで何ができるだろう、私は途方に暮れていた。


自分がこれまでにやりたいと思った仕事を片っ端からあげてみた。パン屋さんにケーキ屋さん、お花屋さん、旅行の計画を立てる人、建築家、本屋さん……いろいろ思い出したなかに、長く夢見ていた仕事があった。仮面ライダーだ。私は、高校入試の面接で将来の夢を問われて「仮面ライダーになりたいです」と答えるくらいには仮面ライダーになりたかった。

現実世界で仮面ライダーなんて仕事が存在するわけはないのだが、近しい仕事がある。役者だ。私はアイドルになって芝居の仕事がしたいと思っていた。これしかない、これならまだ目指せる。こうして私の転職活動が始まった。

芝居の経験がない26歳がいきなり役者になれるわけはないので、まずは芝居の勉強ができる場所を探した。いくつか候補をあげた中で、学費やアクセス、スケジュールなどから興味がありつつやっていけそうな学校を選び、説明会に申し込んだ。2月のことだった。

ただでさえ仕事がしんどいのに、やることを増やすなんてと最初は思ったが、案外これが正解だった。会社以外に居場所を見つけた私は、レッスンがある日を楽しみに過ごすことができていた。思うようなアウトプットができずに悩んだり、同級生と比べて落ち込んだりすることもあったが、私なりに楽しくやっていた。

しかし、どちらも上手くやろうというのはやはり無理で、だんだんと仕事のほうが上手くいかなくなっていた。ギリギリで生きていた私は結局、卒業を控えた翌1月に会社を休職してしまった。

2月には1年間の集大成である卒業公演があった。下北沢の小劇場で、レッスン生12人による公演を行うのだ。私も参加した。仕事のことを全て忘れ、稽古には清々しい気持ちで取り組んだ。

公演は大成功した。反省点を挙げたらキリがないが、やりきったと思えた。

卒業公演を観に来ていた小さな芸能事務所の方が私に興味を持ってくださった。「良かったら、うちで本格的に俳優目指しませんか」願ってもない誘いだった。そもそもこれは転職活動だったのだ。大成功じゃないか。

私はその誘いを断った。決断までには期限ギリギリの2週間を要した。私はその2週間で、一歩を踏み出せなかった。低すぎる自己肯定感はここでも私の邪魔をした。


会社員とは安定した職業である。一定の仕事に対して、一定の給料と一定の休みが与えられる。ふつうに頑張ればそれなりに昇給して、ふつうの生活が手に入る。

6月、安定した職業に復職した。ボロボロだった日常は、たった4ヶ月の休みでほとんど快復した。あんなに己の感情をぶつけあった同級生とはほとんど連絡を取っていない。

私は今も平凡な会社員をしている。